戸倉川 正樹レーザー新世代研究センター 日本学術振興会特別研究員
研究テーマ:高出力超短パルスthin-diskレーザーの開発
活動の概要
ドイツはレーザーの研究が非常に盛んであり、国内には多くの有名大学、企業を有している。私が滞在したハンブルグ大学のHuber研はレーザー結晶の作成において世界でも有数の技術をもっており、ドイツ国内の大学、企業に対しておおきな役割を担っている。また作成した結晶を評価するための優れた技術と設備を有している。
今回の滞在ではHamburg大学から私はthin-disk laserと呼ばれるレーザーについて学び、代わりに私はモード同期レーザーを教えるという形をとり、2つの大きな実験を行ってきた。thin-disk laserにおいてはディスクの接合方法を学び、日本から持ち込んだレーザー媒質を用いて実際にレーザー実験もおこない、平均出力70Wを達成することができた。またモード同期レーザーではHamburgで光学部品の発注から初めて、向こうの博士課程学生に教えながら共振器を構築し340fsパルスの発生に成功した。手空きの時間を利用して学術論文を1本投稿し、さらに非線形シュレディンガー方程式を基本とした共振器内でのパルスの状態の計算やレーザー共振器設計コードの拡張などを行った。その他にも結晶成長過程の説明、wave guide laserについても見識を得ることができた。おたがいに学びあう事ができ非常に有益な研究活動が行え本派遣プログラムに非常に感謝する。
研究成果概要
Thin-disk laserでは結晶とヒートシンクの接合が非常に重要であり、多くの研究所でその技術を欲している。今回ハンブルグの接合技術を学ぶ事ができ、同様の設備を日本でも構築する事ができた。ハンブルグの接合はスイス工科大学の持つワールドレコードの高出力超短パルスレーザーにも用いられており、この技術を学ぶ事ができたのは今後高出力固体レーザーを研究する上で電気通信大学のみならず、これを欲している日本の他の研究所にとっても有益な結果と考える。またレーザー実験では70Wの出力を達成し、Yb:Y2O3セラミック thin-diskレーザーの高出力動作に始めて成功した(投稿論文執筆中)。またこれらの技術を、高出力超短パルスレーザーの開発や、高エネルギー再生増幅器、高平均出力増幅器へ応用することも考えられる。さらにハンブルグ大学へモード同期レーザーについての技術提供を行い一定の成果を得る事に成功し、お互いに有益な関係を築く事ができ、今後の一層の協力関係が見込める事となった。
国際化に関する所感及び提言
やはり私を含めて日本人の外国語スキルの低さを改めて感じさせられました。ドイツでは中学生くらいでも英語で話しかければ流暢に英語で返答が帰ってきます。喫茶店で間違えてフランス語で挨拶をすればフランス語で挨拶が返されてくることもありました。映画館では大衆が字幕無しの英語の映画に興じています。日本では高校で英語を教えている先生でも難しいかと思います。また週に一度程度の頻度でドイツ語圏以外の研究者が訪れ英語での講演も開かれて、自然と英語に接する機会が多い事も魅力的に思えました。ヨーロッパ間で強いネットワークが形成されていると感じました。
今回の渡航では研究および国際交流として大変素晴らしい経験をさせて頂き、こういった経験をより若いうちに経験する事ができれば素晴らしいと思いますが、その際に気をつけて頂きたい事は、渡航前に十分な準備をすることです。私の場合は研究室を自分で選択し連絡をとり、渡航数ヶ月前からe-mailでの連絡や実験の準備などをしました。もし渡航先を指導教官に決められ、自分で事前に密な連絡も取らずに行ってしまうと、2ヶ月間という期間があっても渡航先ではお客様扱いで、研究成果を出す事どころか生きている研究に触れる事すら難しく思われます。また近年日本は近隣アジア諸国を重視した方針を取っているようにも見受けられますが、やはり未だ研究の世界での主要な言語は英語であるし、アジアの若い研究者はヨーロッパや米国にも多く存在しそこで関係を気付く事も可能ですので、是非英語圏に行って欲しいと考えます。
作成日:2011年3月 6日 / 更新日:2011年11月18日