新竹 純知能機械工学専攻 博士前期課程
研究テーマ:圧電繊維複合材料を用いた水中ロボットの研究開発
活動の概要
本研究テーマでは、従来の水中ロボットに用いられてきた回転駆動モータとは異なる、柔軟な直接駆動アクチュエータ、圧電繊維複合材料をロボットに用いている。ロボットの研究においては、その動作やそれによる効果をシミュレーションによって把握し、設計や検証を行うことが求められる。本研究のロボットをシミュレートするためには、構造解析だけでなく水中ロボットであることによる流体解析、圧電繊維を用いていることによる圧電解析、及びそれらを統合化した解析手段が必要となる。これらの解析に対し用いられる手法のひとつに有限要素法があり、本研究ではこれを用いて、ロボットをシミュレートすることが可能な環境を構築することを研究目的のひとつとしている。
このために、電子科技大学(中国、成都)の空天科学技木学院、Xu Limei教授の研究室にて研究活動を行った。この研究室では主にMEMS(Micro-Electro-Mechanical Systems)に関する研究を行っており、圧電素子や各種センサが搭載されたデバイスの構造解析を、有限要素解析ソフトウェアであるANSYS及びCOVENTERで行っている。ここで行った具体的な研究活動は以下の通りである。
- ANSYS、COVENTERを通して有限要素法とそれを用いた解析手段について学ぶ
- 基礎的なモデルを通して両ソフトウェアの操作方法を習得する
- ロボットのシミュレーションモデルを作成し、実際の実験結果と比較検証を行うことを可能にする
- COVENTERを通して圧電アクチュエータの基本的な製造プロセスを学ぶ
本研究の水中ロボットは、アクチュエータを含めたロボット全体が柔軟な構造となっており、実際の魚類のように周期的な進行波によって推進する。そのため、今回の派遣では解析方法として連続体のモーダル解析、周波数応答解析、流体の影響を考慮した連成解析、及びアクチュエーションによる強制振動解析について焦点を当てた。
研究成果概要
今回の派遣を通して、シミュレーションに必要な解析手段を本研究に導入することができた。具体的には、ANSYSによる圧電繊維複合材料を用いた構造体のモーダル解析、周波数応答解析、流体の構造への影響を考慮した連成解析を行うことができるようになり、本研究のロボットが水中においてどのような振動モードとなり、どのような駆動条件を選択するべきかが予測できるようになった。その一方で、これまでの実験で得られた結果を、シミュレーションを通して考察できるようになった。この結果は2011年10月にアメリカで開催されるIROS(International Conference on Intelligent Robots and Systems)への会議資料として投稿(*)され、同年12月にはJRM(Journal of Robotics and Mechatronics)に掲載される予定である。
また、水中ロボットだけでなく、圧電繊維複合材料を用いた羽ばたきロボットのシミュレーションも可能となり、本研究室が持つそれら柔軟ロボットプロジェクトを今後さらに推し進めることができるようになった。具体的には柔軟アクチュエータの動特性を考慮したロボットモデルによる運動予測や効率評価の他に、特に生物模倣ロボットの検証に必要な、複雑な流体現象や生体メカニズムの考察、設計を可能とする環境整備を行うことができた。これにより、将来的な発展が期待される柔軟ロボット分野において、本学が世界的な水準で研究を行い、貢献することが期待できるようになった。
国際化に関する所感及び提言
今回の派遣を通して感じたことは、派遣先の中国の人々の、様々なことに対する意欲が高いことであった。研究活動においてはソフトウェアについて学ぶ際、非常に丁寧に教えてくれ、こちらからの質問にも全て答えてくれ、知識の高さが覗えた。また、現地の学生の中には修士課程から他国への留学を目指すなど、海外への関心の高さと自分をより高めていこうとする向上心を持つ人が多かった。滞在中訪れた他大学のイングリッシュコーナーでは、年齢を問わず多くの人々が英会話に明け暮れていた。その中のある人は、仕事の傍ら英語を学び将来的には海外との取引や国外での勤務をしたいのだと言っていたし、またある人は数百キロ離れた辺境の地で教育活動を行っているのだと言っていた。このように、中国の人々はどのような立場にあっても努力する姿勢を持ち、新たなことに貪欲であった。
日本においては、島国であることもあり、日常の中で国際社会を意識することは稀である。しかし、昨今の景気の低迷に加え震災の経済への影響は避けえず、日本社会は今後、国際的な競争の中での発展を目指すことが必要不可欠である。そのため、我々日本人は一人ひとりが国際的な意識と視野のもとに、現状に満足せず、自身を向上させることを怠らず行動していくことが重要ではないかと感じた。
今回このような考えに至る機会を与えてくださった国際交流センター及び学生課国際企画係の方々、指導教官である明愛国准教授、青山尚之教授、電子科技大学のXu Limei教授、並びに滞在中支援してくださった現地学生の方々に深く感謝いたします。
作成日:2010年9月19日 / 更新日:2011年11月18日