畑中 信一先進理工学専攻 助教
研究テーマ:超音波化学による環境調和型ナノ材料プロセス法の開発
活動の概要
高度情報化社会を支える電子・光デバイス材料として期待されているカーボン・ナノチューブ等のナノ材料を対象として、それらを常温・常圧下で合成する超音波化学プロセスについての基礎研究を行った。超音波化学(ソノケミストリー)の分野で世界をリードしているサスリック教授の研究室においては、二つの異なる超音波照射方法による種々のナノ材料の合成が行われている。一つは、有機溶媒への強力な超音波の照射によって生じる音響キャビテーション現象を利用するもので、キャビテーション気泡の圧縮破壊時には、常温・常圧の液体中で局所的瞬間的に数千度・数百気圧の極限環境反応場を作り出すことができる。もう一つは、超音波による液体の霧化現象を利用したもので、霧化したナノメートルサイズもしくはマイクロメートルサイズの液滴を高温炉に導き、そこでナノ材料を焼成するもので、超音波スプレー熱分解法と呼ばれている。それらの実験系の設定方法を習得するとともに、カーボン・ナノチューブの合成を試みた。派遣期間中にカーボン・ナノチューブの合成には成功しなかったが、ソノケミストリー分野の実験系において、重要な実験パラメータを抽出し、問題点を一つ一つ解決していくノウハウを得ることができた。
研究成果概要
ソノケミストリーは、マクロ的な環境は常温・常圧で熱を加える必要がないため、プロセスそのものが省エネルギー・環境フレンドリーであり、その効果は環境対策・エネルギー対策へも適用可能である。医療の分野に目を転じれば、超音波を利用したプロセスは、マイクロバブルを利用したドラッグ・デリバリー・システムなど大きな将来性を有する。これらのことからソノケミストリーは、経済と環境を両立させるグリーン・イノベーション(環境エネルギー分野革新)と国民生活向上のためのライフ・イノベーション(医療・介護分野革新)の二つのイノベーションを達成するキープレーヤーと成り得る立場にある。しかし一方で、ソノケミストリーは、化学研究分野においても決してメジャーな分野ではなく、情報やノウハウが得られにくい点がある。今回の派遣で、世界で最も著名な研究室において研究できた経験は、本学の発展へ必ず寄与すると思われる。
また、世界トップレベルの研究室の運営や学生の指導方法を学んだことにより、本学の教育に対しても必ず貢献できるものと思われる。具体例を一つ挙げれば、近年、本学でも重要視されている学生実験や研究室での実験以前の安全教育について、派遣先の大学ではウエブ上で何度でも受験可能な試験を学生に課しており、この合格点を得るまで学習することによって個人単位での安全教育の浸透を図っており、大変参考になった。
国際化に関する所感及び提言
派遣先の研究室では、アメリカ人の学生が10人いるのに対して、中国と韓国からの留学生が10人いたのだが、日本からの留学生は一人もいなかった。中国や韓国に比べて、日本人の留学生が少ないのは、イリノイ大学全体にも言えることで、近年、日本人の学生が海外に出なくなっていると問題視されている通りであると感じた。今回の派遣は、国からの競争的資金を電通大が獲得してのものであったが、同様の予算に大学が積極的に応募するとともに、大学内部での海外派遣への支援を増やし、学生や教員の海外への派遣人数を増やしていくと良いと思う。また、派遣期間中の教員の授業負担を非常勤講師で賄う支援等も考慮して、教員がより心的負担をなくして、積極的に海外に出られる環境づくりも必要であると思う。
作成日:2010年5月28日 / 更新日:2011年11月18日