山越 智健先進理工学専攻 博士後期課程
研究テーマ:低温分子生成に関する理論的研究
活動の概要
Fano-Feshbach共鳴(FFR)による極低温分子生成に関する理論研究を行っている。FFRにより生成された極低温分子、特に極性分子は、物性のシミュレーションや化学反応の制御などの応用がある。現在行っている具体的な研究は、分子生成率の温度依存性について半古典的なモンテカルロ法を用いてシミュレートしている。コロラド大学のChris Greene教授の研究室にて研究を行った。今回は、このシミュレーションの結果と、平衡理論と呼ばれる他の理論との比較、検討を行った。コロラド大学JILAは、本研究のテーマであるFFRによる極低温分子生成の先駆的な実験が行われており、今回の訪問では実験に関する情報収集も行った。
具体的な作業として以下の事を行った。
- シミュレーションを行うためのプログラムコードの開発
- クラスターコンピューターによるシミュレーション、および結果の検討
- ランチミーティングでのディスカッション(週3回)
- International Conference on Atomic Physics 2012(ICAP2012)に参加するための資料作り
- 論文提出へ向けての作業
- FFRの実験について、また原子分子光(AMO)科学の近接領域について情報を得るため、他の研究室への訪問を行った。
研究成果概要
コロラド大学JILAは、ボーズアインシュタイン凝縮体、フェルミ縮退気体、極低温分子の生成実験など、極低温原子分子の領域において先進的な研究を行っている。今回の派遣において、半古典的なモンテカルロシミュレーションと平衡理論について、AMOの理論研究を行っているChris Greene教授のグループで大いにディスカッションできた。特にFFRについて少数系で理論研究を行っている、同グループのChen Zhang氏と活発に議論できた。これらのディスカッションを通して、自分の研究に対するフィードバック、研究領域への新たな見識、アイデアなどを得る事が出来た。また実験グループへと訪問し、現在の状況や今後の展開など、論文に掲載される前の生の情報を得ることができた。AMO分野の研究においてトップレベルであるJILAへと訪問し、如何にして研究を進めるかといった経験は、今後の研究活動への大きな財産となる。
今回の派遣における成果はICAP2012でポスターでの発表を行った。また今後は物理学会秋季大会での口頭発表、論文としての投稿を予定している。
国際化に関する所感及び提言
今回の派遣では英語におけるコミュニケーション能力の必要性を強く感じた。生活、および研究上最低限のレベルの英語能力は身についたと考えられるが、的確な表現や素早い回答を実現するまでには至らなかった。相手の発言を聞き返す事や、こちらの言葉の意味を考えさせてしまう事も多く、より高い英語能力を身につけるためにはより多くの時間が必要だと感じた。特に研究の説明において、英語能力だけでなく自らの説明能力の低さも実感した。様々な国から来ている学生と話をしたが、質問に対する回答は素早く、的確でありこのような能力も身に着けるべきであると感じた。JILAでは週二回のティータイムがあり、そこでは多くの学生、研究者、スタッフが交流を深めていた。JILAでは留学生、特に中国人の留学生が多いと感じた。留学生に限らず、学生たちは勉強に貪欲で研究室の垣根を越えて、活発に議論を行っていた。研究に対する姿勢について学ぶべきことも多く、大いに刺激を受けた。
今回の派遣で多くの貴重な経験が得られた。日本国内では決して得ることのできないものであり、多くの学生にこのような機会を利用してもらいたいと思う。
作成日:2012年8月10日 / 更新日:2012年8月10日