竹内 啓悟情報・通信工学専攻・助教
研究テーマ:MIMOブロードキャスト方式に適した通信方式の構築とその性能解析
活動の概要
ノルウェー第3の都市であるトロンハイムにある Norwegian University of Science and Technology (NTNU)において研究を行った。具体的には Signal Processing Group, Department of Electronics and Telecommunications に属する Ralf. R. Müller 教授の研究室に所属し、主として「MIMOブロードキャスト方式に適した通信方式の構築とその性能解析」に関する研究を行った。滞在中には、「Performance Improvement of Iterative Multiuser Detection for Large Sparsely-Spread CDMA Systems by Spatial Coupling」と題して上記グループ内のセミナートークを担当した。また、情報理論で最も権威ある賞であるClaude E. Shannon Awardを2011年に受賞したイスラエルのS. Shamai (Shitz)教授の研究室で博士研究員を務める Benjamin M. Zaidel 博士が偶然NTNUを訪問しており、1週間という短い期間であったが同博士との有意義な議論を行うことができた。さらに、Müller教授の博士課程の学生であるSolomon A. Tesfamicael氏から本研究テーマと深い関連がある「圧縮センシング」の性能解析に関する有益な情報を得ることができた。
研究成果概要
携帯電話の基地局からセル内のユーザ端末に向けて情報を同時送信する問題は、MIMOブロードキャスト通信路と呼ばれる数理モデルによって取り扱うことができる。MIMOブロードキャスト通信路にとって送信レートの意味で最良な通信方式は計算量の点で実現不可能であるため、性能と計算量との間の適切なトレードオフを達成する準最適な通信方式の構築が近年の検討課題となっている。本研究では、ベクトルプレコーディング法とユーザ選択法という二つの既存方式を組み合わせることを出発点として、MIMOブロードキャスト方式に適したデータ依存型ユーザ選択法の構築とその性能解析を目指している。本研究の主要な成果は、応用上興味のあるパラメータ領域では貪欲法に基づく準最適なデータ依存型ユーザ選択法によって計算量の点で実現不可能である最良なデータ依存型ユーザ選択法と近似的に同等な性能を達成可能であることを理論的に示したことである。帰国時点では研究は途中段階であるが、情報理論で最も権威ある国際学会「IEEE 2012 International Symposium on Information Theory (ISIT2012)」への投稿を目指して今後も研究を進めていく方針である。
国際化に関する所感及び提言
今回の派遣先は過去にも滞在したことがある研究室で、新たなネットワークを構築するというよりも純粋にこれまでの共同研究を進めるという色彩が強かった。また派遣先の教授が比較的若いために抱えている学生や研究員の数が少なく、濃密な関係を継続し続けることができるというメリットがある。研究を進める上では、同世代あるいは少し上程度の若くて活発な海外の研究者とのネットワークを構築することも重要であると考えられる。
作成日:2012年1月 4日 / 更新日:2012年1月 4日