電通大の国際交流
国際教育センターホーム arrow 電通大の国際交流 arrow 国際交流事業 arrow 組織的な若手研究者等海外派遣プログラム arrow 各派遣者の報告 arrow 大海 真貴

大海 真貴量子・物質工学専攻 博士前期課程

派遣先:アメリカ合衆国 カンザス州立大学
派遣期間:平成22年11月17日~12月22日

研究テーマ:FEDVR-Lanczos法を用いた高強度レーザーによる原子の高次高調波スペクトル及び光電子スペクトルの計算

活動の概要

高強度レーザーを原子や分子に照射すると超閾イオン化や高次高調波といった興味深い非線形過程が出現する. 最近, こうした非線形過程によるアト秒領域の超高速実時間分析法といった新しい技術が開発されて, 強光子場物理への関心が高まっている. 理論研究においては原子・分子内のクーロン引力がレーザー場に比べて小さいとした強光子場近似をはじめ, さまざまな手法が用いられている. そのうち, 時間に依存するSchrödinger方程式の数値解による非線形過程の分析は大変強力な手法であるが, 多大な計算時間を必要とする場合が多く, 計算の高速化が大きな課題となっている.

時間に依存するSchrödinger方程式を高速に解くための手法としてFEDVR-Lanczos法のプログラムコードを開発し, その特性を調べた. この方法は波動関数の空間分布を有限要素(FE)法と離散変数表示(DVR)法を組み合わせた基底関数によって記述する. これによってハミルトニアンはブロック構造を持った疎な行列として表される. そして系の時間発展にはLanczos法と呼ばれるユニタリティーを満たす高次の近似を用いる. Lanczos法の計算はハミルトニアンが疎行列であるほど速いので, FEDVR法との組み合せによって高精度かつ高速に時間発展の計算を行なうことが出来ると期待される.

また, 本研究活動は派遣先に滞在中であった電気通信大学大学院 先進理工学専攻所属の森下亨助教の指導のもとで行なった.

研究成果概要

三次元系の水素原子についてFEDVR-Lanczos法を用いて光電子スペクトルの計算を行なった. FEDVR-Lanczos法とよく知られた方法であるSplit operator法の計算時間を比較した結果, レーザーの波長に応じて特徴的な性質を示した. 波長400nmと45.54nmの場合について強度1014W/cm2, 半値全幅3fsecのレーザーを用いた場合, 短波長ではFEDVR-Lanczos法はSplit operator法よりも速く, 長波長ではFEDVR-Lanczso法はSplit opetator法よりも遅いという結果であった. 長波長では原子が吸収する光子数が増加するので, より多くの球面調和関数を用いた計算を行なわなければならない. Lanczos法は計算するベクトル空間の大きさの2乗に比例して多くの計算処理を必要とするため, 長波長での計算により多くの時間を要すると考えられる. このため超閾イオン化や高次高調波がよく観測されている赤外, 中赤外領域でFEDVR-Lanczos法を利用するためには改善が必要といえる.

これまでの計算ではレーザー場を電場の振幅と位置座標演算子の積で表すLength gaugeで計算を行なったが, レーザー場をベクトルポテンシャルと運動量演算子の積で表すVelocity gaugeを用いることで計算に要する球面調和関数の数を減らす事が出来る. このためVelocity gaugeを用いた計算手法の開発は有意義であると考えられる.

これらの他に, 週1回のグループミーティングとセミナーへ参加させていただきました. 特にグループミーティングでは自身の研究について簡単な紹介もさせていただきました. また, 派遣先の研究室では学生さんや研究者の方々と交流を持つ事ができ, 意見の交換が出来た事が貴重な経験となっています.

国際化に関する所感及び提言

初めての海外生活であったが, 自分の意見を的確に伝える, 相手の意見を適切に理解するというコミュニケーション能力と英語力の必要性を大きく感じた. これらの能力の必要性を正しく理解してもらうためには, 今回のプログラムのように実際に体感して理解できるような機会が多く用意されていることが大きな助けとなると考える.

作成日:2010年12月22日 / 更新日:2011年11月18日