電通大の国際交流
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小泉 淳先進理工学専攻 助教

派遣先:イギリス イギリス・マンチェスター大学
派遣期間:平成23年4月11日~平成 23 年9月26日

研究テーマ:電子線照射したSiCのラプラスDLTS法による結晶欠陥評価

活動の概要

高エネルギー粒子検出器に使用するための炭化ケイ素(SiC)PNダイオードに電子線照射を行い、電子線照射によってできた結晶欠陥のエネルギー準位を、高いエネルギー分解能で測定できるラプラスDLTS法にて評価した。

携帯端末などのコミュニケーションツールの普及による、爆発的な情報通信量の増大を裏で支える、データセンタ用サーバや携帯端末の基地局に使用する安定な電源、その他、太陽光発電用のパワーコンディショナーなど、電力の変換と制御を行う場面では、パワーエレクトロニクスが使われている。SiCは、現在使われている半導体材料のSiに対して、約3倍のバンドギャップ、7倍の絶縁破壊電界を持つなどの優れた物性により、Siの限界を超えた低損失化が可能であり、次世代のパワーエレクトロニクス半導体材料として期待されている。また、SiCは軽元素から構成されていることや、原子間の結合力が大きいため、原子変位のしきい値エネルギーが大きく、耐放射線性にも優れていることが予測されている。

今回評価したデバイスは、高エネルギー粒子検出器用のPNダイオードであるものの、電子線照射によってできる欠陥は、デバイスプロセスによって生成されてしまう欠陥も持ち合わせている。そのため、電子線照射によってできた欠陥の起源や電気的な性質を調べることは、SiCパワーエレクトロニクスの発展にとって欠かせない研究テーマである。

研究成果概要

測定に使用したラプラスDLTS法は、半導体中に欠陥や不純物が存在することによってできる深い準位を測定する方法である。通常のDLTS測定では、温度を変化させて静電容量の過渡応答をアナログ的に処理することによって準位を求める。この方法により、広範囲の欠陥準位を手早く測定できるものの、エネルギー分解能は高くない。これに対して、ラプラスDLTS法では、ある温度での過渡応答をデジタルデータとして取り込み、測定後にラプラス逆変換を施すことによって、キャリアの放出レートを求める。この方法を使うことで、エネルギー準位の近い複数の欠陥が存在していても、それぞれの欠陥準位からのキャリア放出レートを分離して観測することが可能である。ただし、解の安定性が問題となる数値ラプラス逆変換を行うため、過渡応答測定の「測定データの質」であるSN比を高める工夫、数値ラプラス逆変換アルゴリズムの種類の決定、アルゴリズムのパラメータ設定、解析結果の解釈や限界についての経験的な知見も必要とされる。派遣前に論文に書かれている範囲で検討してきたものの、マンチェスター大学の測定システムを実際に使用することで、帰国後の研究に生かせるノウハウを習得することができた。また、SiCの欠陥準位の研究に関しても、ラプラスDLTS法の新たな応用例として、これまでとは次元の異なるレベルでの研究が大いに進み、共同研究成果として複数の論文を作成する予定である。

国際化に関する所感及び提言

海外の研究者との個人的なネットワークを築くことにより、実験分野の研究者だけではなく、様々な理論計算をしている研究者ともつながる可能性が高くなり、今後の研究分野の発展に大いに役立つと考えている。また、同じ場所で研究し、成果を出してきたことで、信頼のされ方が全く違うのではないのかと感じている。

海外での生活については、派遣期間中に暴動(2011 England riots)が発生するという貴重な体験をした。日本でも報道されていた通り、滞在先のマンチェスターでも衣料品店や車が放火され、略奪も起きた。また、研究を行っていた大学の建物も、窓ガラスが割られる被害にあった。しかしながら、中心部で暴動が発生する前に安全な場所へ移動できたため、被害にあうことも、怖い思いをすることもなかった。当たり前のことではあるが、治安の比較的良い国であっても、「自分の身は自分で守る」との心構えをもつ必要があるけれども、不測の事態に対しても危険情報に注意して行動していれば、割に対処できると思われる。

作成日:2011年9月26日 / 更新日:2012年3月 8日