電通大の国際交流
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稲垣 薫克情報理工学研究科 日本学術振興会特別研究員

派遣先:アメリカ合衆国 カンザス州立大学
派遣期間:平成23年10月23日~平成24年3月22日

研究テーマ:ラット生体モデルによる筋収縮時および回復期における微小循環動態の評価

活動の概要

本プログラムでは、運動生理学研究手法の獲得を目的として、カンザス州立大学のDavid Poole / Tim Musch教授の心臓血管・運動生理学研究室に訪問研究員として滞在し、運動時の血流分配の調節機序に関する研究をおこなった。研究室では、骨格筋における微小循環動態を燐光消光法や生体顕微鏡による毛細血管血流の観察、放射性マイクロスフェアを用いた血流量測定、呼気ガス測定などの手法により検討し、Congestive heart failure (CHF、 鬱血性心不全)、Diabete、Agingなどの病的状態時における心臓、骨格筋、血管内皮細胞などの組織における機能的異常を明らかにすることにより、運動障害メカニズムの解明に取り組んでいる。在籍当初は、これまでの共同研究に関する国際会議における予稿の作成や動物実験のための講義・試験を受けた後に、ラットへのトレッドミルを用いた運動トレーニング法やCongestive heart failure (CHF、 鬱血性心不全)モデルラットの作成法を学び、CHFラットの運動障害に対する運動トレーニングの効果を筋微小循環動態および酸素拡散動態から明らかにするプロジェクトに参加した。次に、ラット運動時の最大酸素消費(VO2max)や最大二酸化炭素産生(VCO2max) といった呼吸代謝に関する測定法を学び、Beetroot juiceやfish oilが持久性能力や一酸化窒素(NO)の生体利用度に及ぼす影響に関するプロジェクトに参加し、実験補助およびデータの解析に携わった。また、放射性マイクロスフェアを用いたin vivoでの運動時の血流量計測手法を学び、フラボノイドのひとつである(-)-epicatechinがNOの生体利用度の亢進により持久性運動能力や活動筋の血行動態に影響するかについての研究を担当した。これらの活動と並行して、今後の研究計画などについて教員や学生との意見交換をおこない、関連文献の調査や収集を中心に研究活動をおこなった。また、Poole教授やMusch教授が担当する大学院の生理学講義や解剖生理学科セミナーに参加し、講義の進め方や大学院生との議論の仕方を学ぶことができ、今後の研究活動に役立つ貴重な経験を積むことができた。

研究成果概要

CHFラットの運動障害に対する運動トレーニングの効果を筋微小循環動態および酸素拡散動態から明らかにするプロジェクトに参加し、ラットCHFモデルやトレッドミルを用いたトレーニングラットの作成法を取得し、放射性マイクロスフェアを用いたin vivoでの運動時の血流量計測により、CHFラットにおけるトレーニングによる運動時の血流分配の改善効果や末梢酸素分圧動態の測定により、一酸化窒素(NO)の生体利用度の亢進を明らかにした。更に、NO 代謝に着目し、Beetroot juiceやfish oilの日常的な摂取がCHFラットの持久性能力や一酸化窒素(NO)の生体利用度に及ぼす影響を明らかにするプロジェクトに参加し、実験補助およびデータの解析に携わった。これらの成果は学術雑誌に投稿準備段階である。また、本期間において担当した (-)-epicatechinが持久性運動能力や活動筋の血行動態に影響するかについての研究では、教授らと個別に研究の方向性を話し合い、滞在する研究室の学生らとともに実験をおこなった。残念ながら具体的な研究成果を滞在中に得ることは出来なかったが、これからの研究に対する助言や研究の進め方、そのための手法の獲得などについて、さまざまな話を聞く機会を持てた。これらは本派遣によって得られた貴重な経験であり、今後研究を進めていく上での重要な基盤となるだろう。

滞在した研究室とは、共同研究を継続しておこなっており、今回の訪問によりその機会も増えることが予想される。このような一流の海外研究室との交流は、今後の研究業績や研究レベルを発展させることができ、それは本学への貢献につながると考えられる。

国際化に関する所感及び提言

本プログラムにおける5ヶ月間の滞在で、実験待ち時間中の会話や実験後のディスカッションを通じ、コミュニケーション能力における若干の向上は実感できたが、準備不足は否めなかった。言語能力はネットワーク構築には欠かせないもののひとつであるため、より長期間の派遣または外国語能力の線引きが推奨される。 大学院の授業は、学生同士のdiscussionが大部分を占め、全員が自主的に発言するといった日本ではほとんど経験してこなかった内容であり、学生の積極性、自律性の違いを感じた。さらに、研究室間の情報交換も盛んで、セミナーに著名な先生を招待しては講演後にホームパーティーが欠かさず開催され、非常に貴重な意見交換の場となった。 このような交流は今まで体験したことがなく、非常にフランクに著名な先生方と話す機会が得られた。今回の派遣から、対等な立場で会話をすることによって、ディスカッションの活性化・アイデアの創出を促し、研究をチームでおこなうことで業績を出すスピードを上げるということが、年間10本以上の論文を生理学のトップジャーナルに発表し続けることができる所以であると感じた。

作成日:2012年5月 2日 / 更新日:2012年5月 2日